霜乃会同人 講談:旭堂南龍 落語:桂紋四郎 浪曲:京山幸太 文楽:竹本碩太夫・鶴澤燕二郎 茶道:松井宗豊 能楽:林本大・今村哲朗

霜乃会プラス 番外編@尼崎 能楽×落語 山村能舞台レポート

レポート

霜乃会事務局の朝原です。

令和4年3月6日(日)14:00~、兵庫県尼崎市塚口町の山村能舞台にて、「霜乃会プラス 番外編@尼崎 能楽×落語」を開催させていただきました。

これは、霜乃会が以前に催した「講談・落語・茶道で知る堺の偉人~千利休・曾呂利新左衛門~」「伝統芸能で旅する京都」から始まる、地域と伝統文化芸能を組み合わせて発信する試みの、新たな一歩です。

それを、霜乃会が毎月開催している「霜乃会プラス」の派生として行うことで、普段の霜乃会プラスで開催しているトークはそのままに、さらに実技を交えて2種類の芸能の共通点と違いを際立たせることで、落語ファンには能楽へ、能楽に詳しい人は落語への興味の扉を広げていただこう、ここからもっと他の芸能への興味も広げていただきたい……という狙いの企画でした。

【当日の進行】

司会 朝原広基(霜乃会事務局、能楽研究家)

トーク「船弁慶」林本大(能楽師)・今村哲朗(能楽師)・桂紋四郎(落語家)・朝原広基

能 仕舞《船弁慶》クセ 林本大 仕舞《船弁慶》キリ今村哲朗

休憩

トーク「悪七兵衛景清」

能 謡《大仏供養》 (景清)林本大 (頼朝の家臣)今村哲朗

落語《景清》桂紋四郎

アフタートーク 全員

20220306霜乃会プラス 番外編@尼崎 能楽×落語

会場も、普段の大阪北浜の青山ビル「北浜RONDO」ではなく、尼崎となったので、前半は尼崎ゆかりの《船弁慶》。

まず、能《船弁慶》の物語を、ゆかりの場所である尼崎市大物にある大物主神社の話を交えつつ、今村哲朗が説明。

途中で、登場人物・平知盛の名前を緊張のためか、思わず言い間違えると、紋四郎がすかさずツッコミを入れて

そもそもこれはァ~平の知盛、幽霊なりィ~

と能の謡の真似。そこから「なんでそこの名乗り詳しいんですか」と、落語の《船弁慶》へと話が展開。

配布資料に『摂津名所図会』から、江戸時代、からくり人形芝居小屋で《船弁慶》の平知盛が義経一向に襲われる様子の絵を入れておきました。観客にはオランダ人が描かれるなど、《船弁慶》が能だけでなく、かなりの広がりを持っていた様子です。

また、浄瑠璃《義経千本桜》にも「大物浦の段」があり、平知盛が、能《船弁慶》を踏まえた姿で登場。おなじみの「そもそもこれは」のセリフもあります。現在でも文楽や歌舞伎で演じられています。

江戸時代のからくり芝居《船弁慶》

以上を踏まえた上で、能の仕舞の形で、林本大が前半の静御前役で、哲朗は長刀を持って、後半の平知盛役で《船弁慶》を実演。

事前に《船弁慶》というタイトルながら、主人公は弁慶ではないこと、どちらも舞台の端に、源義経がいることを意識して見ると、そこはかとなく縁起の意味が分かるのではないか、といった鑑賞ポイントを示したうえでの上演となりました。

仕舞《船弁慶》林本大・今村哲朗

実演の後、少しの休憩をはさんで、後半のテーマは「悪七兵衛景清」。

まず悪七兵衛景清という人物について紹介。林本が能《大仏供養》から、平家の侍で、平家滅亡後も生き残り、源頼朝の暗殺を狙うなど、なんとか源氏の世に一矢報おうとした人物であると説明。

補足として、配布資料に百科事典から「悪七兵衛景清」の項目を引用しておいたのですが、「百科事典では、奈良の大仏供養の場で源頼朝に出頭したとありますが、能では大仏供養の場では出頭どころか、暗殺を狙う」などと話。そもそも、百科事典の項目名が「平景清」になっているものの、「父は藤原忠清」とあるように、氏姓すら曖昧です。

景清についてはっきりしているのは「平家の侍だった」「屋島の戦いで活躍し、錣引きわの逸話を残す豪傑だった」ことぐらいで、あとは物語により、具体的な内容はかなり幅のある、かなり伝承性の高い人物であることが浮かび上がってきました。

紋四郎が落語《景清》には、

それがお前、平家が壇の浦で滅んでからやな、生き残って奈良の大仏供養で頼朝の命を狙ろて、しくじって捕まって助けてもろたんや

という語りがある、と紹介。落語《景清》は、能《大仏供養》を踏まえた景清像なのかもしれませんね。

落語《景清》では、清水寺の観世音菩薩が重要な役割を持ちますが、実は能の《大仏供養》でも、最初に

われ此間は西国の方に候ひしが。宿願の子細あるにより。此程まかり上り清水に一七日参篭申して候

という言葉があり、清水寺との縁も触れています。こういう芸能相互の関連性を感じると、それぞれの芸能も、より楽しめるのではないかと期待しています。

落語《景清》桂紋四郎

なお、景清に関係する他の芸能としては来月、国立文楽劇場の文楽公演で《嬢景清八嶋日記(むすめかげきよやしまにっき)》が上演されます。また浄瑠璃の演目の中で、「古浄瑠璃」と「当流浄瑠璃」を区別する画期となった近松門左衛門作《出世景清》が存在するなど、史実性は低くとも、芸能史上の存在感は大きい、景清はそんな人物なのかもしれません。

なお悪七兵衛景清の『悪』の意味について、「この場合は強いという意味」「悪い奴という意味ではない」という話になった一方で、百科事典には叔父を殺したことを由来として記されています。

景清と近い時代で、やはり「悪」をつけて呼ばれる人物に、源頼朝の一番上の兄・悪源太義平がいますが、彼も武勇に優れていたことが知られる一方で、叔父の源義賢を討ってもいます。力士の「しこ名」も今は「四股名」と書きますが、本来は「醜名」と書きました。現在、悪い意味で使われる言葉には、古くは強さをイメージする意味もあったのかもしれませんね。

トークに続いて、能《大仏供養》の、頼朝暗殺を狙って、春日大社の神職の姿に変装したものの、頼朝に近づくのを頼朝の家臣に咎められる場面を、謡で上演。景清役を林本大、頼朝の家臣を今村哲朗が謡いました。さらに続けて、桂紋四郎が落語の《景清》をたっぷり口演して、この日の催しは終演でした。

参考までに配布した百科事典の記述を以下に示します。

【平景清】たいらのかげきよ(?―1196)

平安末期の武将。藤原忠清(ただきよ)の子。1180年(治承4)の北陸道における木曽義仲(きそよしなか)との戦いに平家軍として参戦、続く84年(元暦元)の一ノ谷の戦いにも奮戦したが敗れた。翌年の屋島の戦いで、武蔵国住人・美尾屋(みおのや)十郎の兜の錣(しころ)をとった景清は、「是こそ京童べのよぶなる上総悪七兵衛景清」と名のった(平家物語)。彼は叔父にあたる大日能忍(だいにちのうにん)を早合点から殺してしまい、悪七兵衛といわれていた。壇ノ浦における平氏滅亡後も生き延びた景清は、平氏再興を図る知忠(ともただ)(知盛(とももり)の子)の挙兵に加わった。その後95年(建久6)東大寺供養に上洛した源頼朝に降り、八田知家(はったともいえ)に預けられたが、やがて飲食を断って死んだという。謡曲『大仏供養』、浄瑠璃『出世景清』(近松門左衛門作)などで有名である。[田辺久子]

小学館『日本大百科全書 ニッポニカ』(1994年)より

落語の鳴り物にも来ていただいたこともあり、能舞台で寄席囃子が入る落語会スタイルでの開催。まさに「能楽×落語」というタイトルにふさわしい楽しい時間となりました。

トークの登場の際にも出囃子を弾いていただいたのですが、紋四郎以外の3人は寄席囃子がどうやって止めたら良いのか分からず、とまどうのも、霜乃会ならではの一幕でした。

次回の霜乃会プラスは通常開催で、大阪市中央区・北浜RONDOで4月14日(木)18:45~です。普段は聞く側の桂紋四郎が、逆に聞かれる側に回る会を予定しております。聞き役は、講談師・旭堂南龍と朝原です。

今後とも霜乃会を何卒よろしくお願い申し上げます。

20220414霜乃会プラス 桂紋四郎

参考:来場者アンケート結果

  • お能の迫力を感じ取れました。4人の楽しい話の掛け合いがまた良かった。身近に感じました。また機会があれば鑑賞したいです。
  • 能楽を身近で拝見できました。迫力、声が特に良かった。ありがとうございました。
  • 参考になりました。
  • 興味深い会をありがとうございました。
    ・仕舞をこんな間近で見たのは初めてで迫力に圧倒されました。
    ・今回のように1つのテーマで複数の芸能の演者さんからお話をうかがえる機会は貴重なので、次の会も楽しみにしています。
    ・能と歌舞伎の関係なども知れるとうれしいです。
    ・テーマとして『敦盛』に関することも、複数の演者さんからうかがってみたいです。
  • 今年初めの頃から能や狂言を見てみたいと思い、来てみました。まだ知識がなく、形だけ見ている感じですが、内容が自分なりに分かるようになったら楽しそうです。落語は好きなので、このようなコラボは入りやすいです。
  • こちらの能舞台さんを初めて知り、拝見できてよかったです。お話が面白く、普段行く能舞台より近くで拝見できて迫力がすごく感じられました。20年後楽しみにしています。
    ※林本や哲朗が「能の《景清》を演じるならば、20年ぐらいは先になるかと思う」と話したことからだと思われる。
  • 仕舞の前に解説をしていただいたので、良く分かりました。景清の話も大変興味深かったです。『出世景清』は復曲で大阪以外の場所でしか上演されていません。阿古屋では話題に出てくるだけで姿は見せず、勉強になりました。ありがとうございました。山村能舞台、良いですね。アクセス便利でとても良かったです。
  • 生で見る迫力がすごかったです。ぜひまたやってください。
  • 会場の場所が分かりにくかったですが、内容は良かったです。
  • 楽しませていただきました。ありがとうございました。
  • 番外編の企画、大変面白かった。
  • 駅から少し遠いですが、素敵な会場で、雰囲気が良かったです。4人の方のトークが楽しかったです。ありがとうございました。次回楽しみです。
  • 演目の説明などあり、理解が深まりました。会場も今回初めて知ったが、舞台が近くてよかった。
  • 良い会場でゆかりの話が良かったです。時々場所を変えて、良いですね。
  • とても良かったです。
  • 楽しく見学させていただきました。

20220306霜乃会プラス 番外編@尼崎 能楽×落語

20220306霜乃会プラス 番外編@尼崎 能楽×落語
20241005-06霜乃会本公演 東京公演