刀剣と伝統芸の関わり!帯の結び方に込められた意味? 霜乃会プラス「講談」アフタートークweb版・後編
お知らせこんにちは。霜乃会事務局です。霜乃会の定期勉強会「霜乃会プラス」2月14日に開催されたアフタートーク。前編は既にWEB公開していますが、その続きをこちらに公開させていただきます。
後編は刀剣とそれぞれの芸の関わりを、旭堂南龍(講談)・桂紋四郎(落語)・松井宗豊(茶道)・京山幸太(浪曲)・林本大(能楽)がそれぞれ語るところがメインになりました。それぞれの芸に、どのように刀剣が出てくるか…という部分から、扇の作法、さらに帯の結び方の話へと展開していきます。
刀剣と古典芸 落語と講談
紋四郎 あと、一つ思ったのが刀ね。落語には刀はほぼ出ないです。
一同 ほお。へぇ~。
紋四郎 道具の名前として出たりとか、それこそ《禁酒関所》で刀がどうちゃらとか言うぐらいなんですよ。でも、ほぼ出ないです。
南龍 講談には刀剣列伝があるんで。例えば、「正宗がなんであんなに名を残すのか」「村正がなんであんなに悪評を持っているのか」の語りがあるんですよ。刀剣も人間が作るので、その人間の物語があるんです。どうして村正が悪剣と呼ばれるような忌み嫌われるものを作ってしまったのか。めちゃめちゃ切れ味がある。刃を上にして、葉っぱを落としたら、正宗は切れないんです。でも村正はスパッと切れるんです。
紋四郎 ということは村正の方が優秀ということですか。
南龍 でも、刀はそんなもんじゃないという。師匠から「お前のは切れろ切れろと思いを込めているから、そんな悪剣を作る」と言われて、いわば憂き目に会うんです。でも、正宗は「刀は切ろうと思えば切れるのであって、切らずにと思えば切れないようになる、それが名刀や」と。
紋四郎 それは(笑福亭)仁鶴師匠が楽屋では静かみたいなものですか。舞台ではウケるけど……。
一同 (漏れ笑い)
南龍 ごめん、そのたとえ、よーわからへん。
紋四郎 ウケようと思えば受けるけれど、楽屋では静かに本読んではる。
南龍 いうたら『スターウォーズ』みたいなもんですわ。ダースベータ―がいて、ルークスカイウォーカーがいるみたいな。
紋四郎 わかるー……ってわかるか!
一同 (笑)
南龍 余計分からんか(笑) もともとはええ人やけど、「師匠にそんなこと言われたから、じゃあ俺はもっと切れる刀作ったろう」みたいな。そのうち村正を持つ者が気がふれてしまうようになって、人を殺してしまう。それがたび重なることで、妖刀としての噂が広がったと。
刀剣と古典芸 茶道
紋四郎 お茶では刀はどうですか。
松井 基本的に茶室には刀というか、刃物は持ち込めません。
南龍 そういえば、刀かけがあるんですよね。
幸太 刀かけ?
松井 茶室の入口のところに、刀を置いておく棚があるんですね。
南龍 今度見てみよう。御待合にあるんですか?
松井 路地を通って茶室のにじり口があるんですが、そこの脇に。
南龍 必ずあるんですか?
松井 必ずではないですね。
紋四郎 それは侍の方が来た時のためにある、ということですか?
松井 そうそう。
紋四郎 ということは、昔、政治活動していた羽柴誠三秀吉とかが来た時とか、刀置いて……。
松井 あの人、刀持ってない。
一同 (笑)
南龍 あの人、お金だけ持ってる(笑)
松井 ですから、花を切るための小刀も必ず鞘に入れて持ってます。
南龍 生け花用ですね。
紋四郎 それだけ刃物厳禁なのは何か由来があるんですか?
松井 お茶の茶室の中は殺生してはいけない、という文化なんで、一切の刃物を持ち込まないんですね。
紋四郎 ほな、浅野内匠頭も、茶室で吉良上野介に教えてもらっていたら良かったんですね。「殿中でござる」もなかったかもしれない(笑)
刀剣と古典芸 浪曲
紋四郎 浪曲は結構刀出てきますよね。
幸太 刀は多いですね。うちの京山幸枝若一門には《会津の小鉄》という十八番のネタがありますが、これは会津部屋で、長曽祢虎徹という刀を持っているから、「会津の小鉄」というんですよね。あとはヤクザ物・任侠物が多いので、どうしても刀は出てきますね。
南龍 だから金髪にせなあかんのですね。
一同 (笑)
紋四郎 何の繋がりが!
南龍 ヤクザ物せなあかんから(笑)
紋四郎 最近のヤクザやんか! しかも三下や、三下! チンピラや(笑)
南龍 ごめんなさい(笑)
松井 しかも今どきいない。
紋四郎 半グレ、半グレ(笑)
刀剣と古典芸 能楽
林本 能も刀は多いですね。刀に魂が宿るというか、神様が宿るというか。稲荷の神の加護を受けて刀を打つ《小鍛冶》とか。《土蜘蛛》という能では、「蜘蛛を切った刀なので『蜘蛛切』と名づけよう」という場面もあります。その蜘蛛切は、元は「膝丸」というのですが、スッと何気なく下ろすだけで、膝まで切れてしまうのでそうと呼んだとか。
幸太 そんな話があるんですね。
紋四郎 そんな話も室町からあったんですか。
林本 そうですね。
南龍 やっぱり武士が携わっているものだから?
林本 そうですね。能楽師は扇子を刀の代わりとして挿すんですが……。
紋四郎 そういえば、そんなイメージある。
林本 座ると、こうやって右側に抜いて置くんです。
南龍 刀と同じなんですね。
林本 右に置くということは……
南龍 「敵対心はありません」の姿勢ですね。
林本 左手で持っていたら、すぐ切りかかれますからね。
紋四郎 めっちゃ腹立つ相手の前なら……
林本 わざと左に置くこともあるかもしれません(笑)
南龍 そんなことしたら怒られますか?(笑)
紋四郎 そりゃ怒られるわ!(笑)
一同 (笑)
南龍 そりゃそやね。
紋四郎 しかも切れへんし(笑)
刀剣と帯の結び方
松井 茶道では、扇をそこ(腰の横)に挿すのを嫌がるんです。
南龍 なんでなんですか?
松井 やはり刀に見立てるから……だと思います。茶の人間やからと後ろ側に挿します。
南龍 でも隠し刀みたいや(笑)
紋四郎 確かに(笑)
松井 僕ら裏千家の業躰だけかもしれません。家元に「ここに挿せ」と言われたから、そうしています。
紋四郎 扇子の挿す位置でもいろいろあるものでして……。
林本 それを言ったらですね、帯ってこう「わさ」になってるでしょ?
南龍 わさ? どういうことですか?
松井 二つに折って……。
林本 帯って二つに折るじゃないですか。
南龍 ああ、先っぽのところ?
林本 女性の方の帯は、下向きで付けますが、男性は……
南龍 なんというか、三角の頂点が上?
林本 そうそう、折れているこっちが上。
南龍 そういえば、上にしてますね。
林本 僕らが付けるハチマキも、女性役のものは下。男性役だと上なんです。
南龍 ええええ? 知らんかった!
林本 見ているお客さんは全然分からないでしょうけれど……。
南龍 なんで宗豊さん、知ってはるんですか?
松井 え?
南龍 いや、小声で「そうそうそう」って頷いてはるから。
紋四郎 前は能楽師やってたから(笑)
一同 (笑)
南龍 んなわけあるか。むちゃむちゃ器用すぎるやん。
林本 わけあって今はお茶をしている?(笑)
松井 わさの方向は気にしてなかったですか?
南龍 最初から「こうやで」と教わったから別に気にしてなかったです。
林本 私が聞いたのは、わさが下向きだと、刀を差した時に、帯の間に刺さってしまうから……と。
紋四郎 なるほど!
林本 刀が刺さらないように、帯をこうしてわさの向きを工夫したと。
松井 実は前に林本さんとこの話をしたことがあって。だから、うちは帯の向きも逆なんです。僕らはわさを下にする。
紋四郎 ああ、なるほど。つまり刀をわざと挿しにくいように。おもろー、それ!!
南龍 全然気にしたことなかった!
松井 まだペーペーの頃、家元のお着替えをお手伝いする時に、帯のわさを必ず下にして渡さないと……
南龍 怒られる。
松井 はい、「逆や」と。
南龍 「切るぞー!」言われて。
一同 (笑)
紋四郎 いや、持ってないから(笑) 家元も持たないようにそうしてるから(笑)
松井 首は切られますけれど。
紋四郎 上手い!
一同 (拍手)
南龍 これ、紋四郎さんの横におるからやで(笑)
紋四郎 普段、ボケへん方やからねぇ。
「上方芸能で旅する京都」の宣伝
南龍 せっかくなので、今日、みなさんから質問とか、もしあったら……霜乃会メンバーも、これだけ顔が揃うのも珍しいので。
林本 今日は多いですね。
南龍 紋四郎さんも寄席やって聞いていたら、おらへんかなと思っていたら、日間違ってたと(笑)
紋四郎 そうなんです。いや「今日、深夜寄席なんで行けませんわ」とLINEしていたんですが、来週でしたわ(笑)
林本 松井さんも、ホントは今日難しいと聞いてたんです。
南龍 高速でお茶点てて来たんですね(笑)
一同 (笑)
紋四郎 機械点て?(笑)
南龍 そんなわけで、何かあったら。……なかったら、もうこのへんで終わりましょうか(笑)
林本 宣伝だけ。
南龍 そうでした。4月に京都公演があります。担当の松井さん・紋四郎さんから、どうぞ。
紋四郎 では裏千家漫談家の松井宗豊から(笑)
南龍 裏千家漫談家……怒られるわ(笑)
南龍 これ、会場がなかなかええところですよね。
松井 そうですね。来たる4月4日(土)、5日(日)……
紋四郎 いいえですね、「来たる」とか言うたころないですわ!
松井 場所は京都、4日が相国寺の塔頭・養源院です。
南龍 これは普段、なかなか普段入れないところなんですよね。
松井 そうですね。相国寺に入るのはできますが、塔頭の中にまでお邪魔して入るのはなかなか機会がないかと思います。
南龍 これは、霜乃会ならば宗豊さんがいるから「良いですよ」ということで。
松井 その御本堂で公演をさせていただくことになりました。
南龍 4日は能と浪曲とお茶ですね。
松井 能が舞囃子《田村》。
林本 はい。
南龍 坂上田村麻呂ですね。
林本 そうですね。
南龍 田村正和じゃないですね(笑)
紋四郎 タラーラー、タラーラー、タラーラーラー♪(田村正和主演『古畑任三郎』のテーマ)
一同 (笑)
林本 田村正和ではないです。
南龍・紋四郎 失礼しました(笑)
松井 浪曲が《弁慶五条の橋》。
幸太 そうです。
南龍 浪曲が養源院でやるのは初めてですか?
松井 お能とか、謡曲は結構やっているらしいんですが、浪曲は初めてだと思います。
南龍 初ですね!
(お客様から少しだけ拍手)
南龍 心細い拍手、ありがとうございます!
一同 (笑)
松井 そしてお茶があるわけですが、この能や浪曲の演目にできるだけ関わるような道具を……と思ってます。
紋四郎 そんなんもできるんですか。すごいなぁ、お茶は。弁慶は七ツ道具持ってますから、結構できるんちゃいますか?
南龍 おもろい、おもろい。
松井 弁慶か、牛若丸関連の何かはできるかなぁと。田村は……どうしましょうか。
南龍 田村麻呂といえば、初代の征夷大将軍ですね。
松井 そして5日が、大原の方にある栖賢寺。これがほとんど知られていないようなお寺さんで。元々は廃寺みたいな感じだったようです。
南龍 あ、そうやったんですか。
松井 今のご住職、40代か30代のお若い方ですが、彼がここに入ってから、ご自分で、知り合いの人たちと、DIYのような形で、どんどん立て直しをしているような最中です。
紋四郎 でも、栖賢寺めっちゃ雰囲気ありますよ。
南龍 そして奥様がスロバキアの方でしたっけ? でもお点前・作法される方で。
松井 こちらでは講談・落語・茶道を開催します。
南龍 これ、実は時代を追う内容になっているんですよね、これ。一番古い時代から。
紋四郎 そうなんです。「京都を旅行して欲しい」というイメージなんです。「新たな京都が見えるぞ」みたいな。能は《田村》で田村ま、正和…ちゃうわ(笑)
南龍 田村麻呂(笑)
紋四郎 で、古代じゃないですか。そして浪曲の《弁慶五条の橋》は、義経の時代でしょ。で、講談の《一休禅師》は室町で、落語《三十石》は江戸から明治にかけてなので、幾層にも重なる歴史のストーリーを知っておくことで、この後、それに関わる場所に行ってみると、見え方も変わるかな、と。
松井 裏側にアクセスマップもあります。
南龍 宗豊オススメマップですよね。
紋四郎 そうそうそう。
松井 オススメした…つもりはなかったんですけれど(笑) 自分で検索して探しました。田村麻呂はゆかりの清水寺あたりに「こんなんありますよ」と。弁慶は五条橋。一休禅師は……
南龍 金閣寺ですね。
松井 金閣寺あたり。落語の《三十石》は伏見が舞台なので、そのあたりの案内を載せています。芸能に触れた後に、ゆかりの場所を巡ることで、より理解を深めていただければ、楽しいかなと思います。
紋四郎 今日ね、たまたまチケット置いてるみたいなんで(笑)
林本 たまたま(笑)
松井 いつもはないんですけれど(笑)
南龍 たまたま、今日お越しになってるお客様全員分あるそうで(笑)
一同 (笑)
南龍 よろしければお帰りの際に、受付にてご購入ください。
松井 両日ともに午前・午後と二部制です。お得な通し券も用意しています。
林本 もし評判が良ければ、次は「伝統芸能で旅する大阪」もできるかと思います。
紋四郎 47都道府県できますからね(笑)
南龍 北海道とか、ゆかりの伝統芸能あるのかなーと思ったりしますが(笑)
松井 四国とか良いですねぇ。
3月 霜乃会プラス 浪曲のお知らせ
南龍 さて、ちょうど持ち時間となりましたが……。
幸太 来月の霜乃会プラスもありますんで(笑)
南龍 あ、忘れてた(笑)
松井 大事ですよ(笑)
幸太 来月の霜乃会プラスは、私、京山幸太が担当します。テーマは浪曲「新作から古典へ」。
紋四郎 良いですね。あえて「新作」から「古典」へ?
南龍 新作のネタは決まっているんですか?
幸太 「どんな古典も元々は新作やった」ということから、まだ作られてからあまり時代が経ってないような比較的新しい古典を紹介しようと思ってます。
南龍 ということは…まずは原始時代の浪曲から(笑)
紋四郎 バカヤロウ!言葉があらへんがな(笑) 三味線もあらへん(笑)
一同 (笑)
南龍 3月13日、ホワイトデー前日ですな。
幸太 ええええ? 何の振りですか。ともかく、いかにも古典古典した、講談などと共通のネタではなくて、今も実在する反社(反社会的勢力)に関する浪曲などもありますし。
南龍 えええ? 実在の反社?
紋四郎 えらいこっちゃなぁ。
幸太 そうですね。あと、ひとつだけ言っておくと、《嗚呼機動隊》というあさま山荘事件を描いた浪曲など、うちの京山幸枝若一門の新しい演題を紹介しながら、最後には浪曲の実演も聴いてもらおうと考えています。
南龍 あさま山荘事件の浪曲……?
幸太 そうなんです、やってるんです。
南龍 ということは、浪曲しながらカップラーメンを食べる?
紋四郎 なんでやねん!
南龍 遊び過ぎました。ごめんなさい。
幸太 そんなわけで、来月も是非ともお越しいただければと思っています。良かったら是非。
南龍 ……というわけで、ありがとうございました。
一同 ありがとうございました。
(拍手)
後編もお楽しみいただけましたでしょうか。最後のほうは、今後の霜乃会の公演の宣伝になっておりますが……WEBの「お問合せ・お申込み」、もしくは電話にて受付しておりますので、お待ちしております。
文字起こし・編集 朝原広基[霜乃会事務局]