霜乃会同人 講談:旭堂南龍 落語:桂紋四郎 浪曲:京山幸太 文楽:竹本碩太夫・鶴澤燕二郎 茶道:松井宗豊 能楽:林本大・今村哲朗

バレンタインと伝統芸?男同士の恋愛? 霜乃会プラス「講談」アフタートークweb版・前編

レポート

こんにちは。霜乃会事務局です。先月の令和2年(2020年)2月14日に、大阪市中央区の青山ビル地下1階「北浜RONDO」にて開催された霜乃会の定期勉強会「霜乃会プラス」。

この日は旭堂南龍の担当による講談の回で、まず講談《細川忠義の血達磨》が披露されました。その後、集った霜乃会のメンバー(写真左から旭堂南龍[講談]・桂紋四郎[落語]・松井宗豊[茶道]・京山幸太[浪曲]・林本大[能楽])によるアフタートークが行われました。

その時の録音を文字に起こしたものを、霜乃会プラス・アフタートークweb版として、前後に分けて公開します。

ただし、アフタートーク全体が《細川忠義の血達磨》と関連させて展開していますので、前提知識として、あらすじを『世界大百科事典』からの引用でご紹介しましょう。

講談。肥後熊本の細川家に伝わる名宝の由来譚。主人公の名をとって《大川友右衛門(おおかわともえもん)》とも題する。細川綱利侯に仕えた大川友右衛門は,江戸屋敷類焼の際,切腹して主家の重宝達磨の掛軸をみずからの腹中に収め,命にかえてみごと,お家の宝を守り通したといわれる。この血に染まった達磨が,細川の血達磨と呼ばれ,長く友右衛門の忠節がたたえられた。いわゆる武勇物,忠義物の一つであるが,その他友右衛門が綱利の小姓と男の契り(衆道)を結ぶ話や,妖刀村正のたたりなど面白いくだりがある。
『世界大百科事典 第2版』「細川の血達磨」より

歌舞伎にもある《細川忠義の血達磨》

紋四郎 おもろいですね、ええ話ですね。バレンタインにぴったりの……

南龍 (すかさず)いや、どこがやねん、どこがぴったりや!

一同 (笑)

幸太 いや、江戸時代にまさか雑誌『薔薇族』があったとは!

南龍 ちゃう、ちゃう!

紋四郎 あそこおもろかったですね、横山入れるあたり。

南龍 あれ、いろいろ緊張した。歌舞伎の芝居で、炎のシーンでね、今の(十代目)松本幸四郎先生が、まだ(七代目市川)染五郎先生だった時、炎をうわーってレーザービームなんかで照らし出しながら、崩れながら、赤い布とかやりながら、腹を掻っ捌いて、ほんでね、臓物を出すところがある。

紋四郎 ほおお。

南龍 それを人形でするんですよ。人形というか、ぬいぐるみで。ガーッと切って置いて、バーッと出して「これが肝臓、これが腎臓、これが小腸、大腸……これがほんとの勧進帳」ってやるんですよ。

一同 (笑)

紋四郎 めっちゃオモロイやないですか。

南龍 大阪ではウケたんですよ。

紋四郎 それはウケますがな! めっちゃオモロイ!

南龍 でも東京は「けしからん」言うて。「歌舞伎をなんと冒涜している」みたいな。

紋四郎 お客さんが?

南龍 評論家が。

一同 (苦笑)

紋四郎 評論家ちゅうのはね、一番あきませんわ!

一同 (笑)

霜乃会プラス講談 旭堂南龍

伝統芸とバレンタイン

南龍 ほんで、今日はね、そんな話を入れながら、バレンタインで古典芸能ということで。

紋四郎 はいはい。

南龍 バレンタインといえば能楽ですよね?

林本 (すかさず)なんでやねん!

一同 (笑)

紋四郎 どうなんでしょうね。バレンタインとかって、落語やったら結構イベントとか良くやるんですよ。いわゆる恋に関するネタを並べた落語会とか、それこそ女性の噺家さんが主催して、繁昌亭でやったりとか。たぶん講談も近い企画はできると思います。

南龍 そうですね。

幸太 浪曲も演芸なので、やろうと思えばできますね。

紋四郎 お茶ってバレンタインにちなんだイベントってあるんですか?

南龍 抹茶とチョコレートみたいな。

林本 おかしい、おかしい…(笑)

松井 一般の女の人とかはやっているかもしれません。バレンタイン茶会とか。

紋四郎 つまり立場があると、かえってやりにくいけれど……?

南龍 バレンタイン茶会! ということはお点前を女の人がやって、お茶を飲みきったら、「好き」って書いてあるとか(笑)

松井 茶碗の底に…?(笑) 絶対飲み切らないと分からないですね。

林本 能の場合も、男女の出会いの話が多いので、「バレンタイン能」という企画はありじゃないかな。

南龍 曲の中で男女が出会うんですか。

林本 恋物語があったり。ただ、あまりリアルな描き方はないですが。

南龍 でも別れる話が多い印象があるんですが。静と義経が生き別れるとか。

林本 死に別れるとかね。

一同 (笑)

紋四郎 それは夫に不満がたまってる奥様向けにやったらええですやん。

南龍 それオモロイ。

紋四郎 それ、めっちゃ需要ありますよ。

南龍 「これで悪縁を断ち切りましょう」と言うて。

一同 (笑)

男同士の恋愛と伝統芸

紋四郎 今日聞いてて思ったのは「しゅうどう」っていうんですか。男同士の恋愛みたいな。

南龍 「衆道(しゅどう)」やね。「皆の衆」の「しゅ」ですね。

紋四郎 このテーマは、落語にはないんですよ。

南龍 そや、男女はありますよね。

紋四郎 男女はあるんですけど、男同士はないんですよ。

南龍 男同士はめっちゃ講談にありますよ。

紋四郎 どうでしょう…お茶には?

一同 (笑)

紋四郎 お茶は無理ですか。ほかの芸能はどうかなーと。

幸太 浪曲も基本ないですね。新作でやっているだけで。

南龍 そういえば前、霜乃会でやった……

幸太 《任侠ずラブ》ですね。

紋四郎 ないからやってみた、という試み?

幸太 そうですね、古典にはないです。

林本 能には、実はありますね。

南龍 それはどんな話なんですか?

林本 《松虫》という曲で、これもリアルではないですけれど。

南龍 それは、大阪の松虫のあたりの……。

林本 そうです。

南龍 え、あの地名の由来になったとか。

林本 そう、そうです。

紋四郎 それを詳しく、すごく面白く、3分ぐらいでお願いします。

林本 無理。

紋四郎 難しいですか?(笑)

南龍 いろんな要素が難しい(笑)

林本 男が、自分の友達と一緒に遊んでいたのに、野原で松虫が鳴く中に死んでいた……。

幸太 松虫というと、あの地名の。

南龍 阿倍野の南の、熊野古道の近くにありますね。

林本 その松虫で、息絶えていたんです。その友達をずっと偲んで、その男もやがて亡くなったけれど、いつまでも霊がその友のことを偲んで舞を舞う……という。

南龍 それは友と言いつつも、恋人?

林本 そのようにも取れる内容がある。

南龍 見る人によって……。

林本 そのように見えることもある。

紋四郎 それはどれぐらいの時代にできた曲なんですか? まあ、事務局長に聞いても良いんですが。

林本 彼は知ってますが……だいたい室町時代にはできているよね?

事務局 金春禅竹の作なので、室町中期ですね。

南龍 室町にはできてるんですか。

紋四郎 だいたい衆道というのは、昔からあるものなんですか。それとも武士発祥ぐらいなんでしょうか。

南龍 だいたいお坊さんがそうじゃないですか。御小姓というか、寺の小僧と、それで……という話が。

林本 ……なんでバレンタインに男と男の恋話をしてるんでしょうか。

一同 (笑)

南龍 いやいや、ですから、いろんな愛の形がある……というテーマなんですよ。

霜乃会プラス講談 桂紋四郎

マンガなどでのお約束な展開も講談から? 人情劇は能にはない?

紋四郎 そういえば、この趣向もあんねや、と思ったのが、マンガなどでも良くある「一緒に行く」と言ってた二人が、年長者が「よし行こう」と言ったすぐ後ろから手刀などでバァンってするの。これ昔からあんねや、思うて。

一同 (笑)

南龍 火事に行って、案内しようと油断をしている時に当て身を当てる場面ね。

紋四郎 『ダイの大冒険』にもあったし、『るろうに剣心』にもあったし……。講談の常套手段ですか。

南龍 なんていうか、「こうあって欲しいな」みたいな。共に死ぬよりも「若い者を残して、俺が死ぬから後は頼む」みたいな展開なんやね。

紋四郎 それ能楽ではあるんですか。

林本 ええ、それは……?

紋四郎 何かをかばって死ぬとか。

林本 人情劇というのはほとんどない。僕らがやる能は、中世にできているもの。平和な時代にできたものには人情劇が多い。室町時代は戦乱が多くて、生きるか死ぬか。今、隣にいる人が次の日には死んでいるというような時代の中で、人情の話はできない。

紋四郎 ほぉ。なるほどなるほど。

林本 言葉は悪いかもしれないけれど、「お涙頂戴」みたいなのは能楽にはない。

紋四郎 確かに火達磨になろうが、室町時代なら普通やもん。ずっと火達磨じゃないですか。

林本 だから能《安宅》と同じ話を、歌舞伎では《勧進帳》として演じるけれど、江戸時代にできている歌舞伎は人情を描く。富樫は、実は義経だと分かっていたけれども通すという「人情」がテーマになる。

南龍 《勧進帳》は能からなんですね。あの、そらで勧進帳を読む部分が講談に残っているんですが、七代目の市川團十郎が、講談を聞いて、それを歌舞伎にあの形が取り入れたと言われています。歌舞伎は何でも取り入れるんで。

紋四郎 ほな、講談から来てるってことですか?

南龍 あのくだりはね。七代目の市川團十郎が、当時の伊東燕凌(いとう・えんりょう)という講釈師に「教えてください、燕凌先生」て言うたら、「遠慮してくれ」と……。

紋四郎 バカヤロウ!

一同 (笑)

南龍 いや、ちょっと今日は硬派なネタやったから……(笑)

紋四郎 お互いウケたい派やらか。

旭堂南龍さんが「咲くやこの花賞」受賞!

林本 今頃ですが、南龍さん、「咲くやこの花賞」受賞おめでとうございます。

一同 (拍手)

南龍 ありがとうございます。ホンマ、授賞理由に霜乃会のことも、めちゃめちゃ書いてくれてたんで。大阪市が「霜乃会ってあるんですね、めちゃめちゃ面白いすね」ってことですよ。

紋四郎 来ましたね!

林本 時代が……

紋四郎 ブームやね!

南龍 僕らだけのブームですけど(笑)

幸太 実は霜乃会からケーキが……

南龍 え、あるんですか?

幸太 いや、ないそうです(笑)

南龍 ないんかい!

一同 (笑)

南龍 一番そういう冗談言いそうにないから、おどろいたわ。


前編はここまで。また後編も近日公開予定ですので、是非ともよろしくお願いいたします。

文字起こし・編集 朝原広基[霜乃会事務局]

後編を公開しました。あわせてお読みください。(2020年3月7日追記)

20200214霜乃会プラス 講談 アフタートーク